予約サイトからの送客は安定しています。それなのに、手数料を引いたあとの数字を見るとため息が出る月が、だんだん増えてきてはいませんか。自社サイトからの予約を増やしたい気持ちはあっても、エリア名で検索すれば大手の予約サイトがずらりと並び、自分たちのサイトは何ページも先。どこから手を付ければいいのか分からないまま、気づけば季節が一巡していた、という話もよく聞きます。
予約サイト頼みだった宿の、取り組み前の状況
この旅館は、最寄り駅から車で二十分ほどの温泉地にあります。客室は二十室ほど、従業員は十五名ほどで、女将と若旦那にあたるご夫婦が現場に立ちながら、経理も予約の管理も見ているという体制です。料理は地元の食材を使った会席が中心で、リピーターのお客様も一定数いらっしゃいました。
予約の入り口は、ほとんどが大手の予約サイト。空室を載せておけば、自分たちで何もしなくても予約は入ります。その代わり、売上からは毎月の手数料が引かれます。繁忙期に部屋が埋まっても、手元に残る額は思ったほど伸びないのです。その感覚が、数年のあいだ少しずつ積み重なっていきました。
旅館という形そのものが、客室を埋めにくい面も抱えています。観光庁の宿泊旅行統計調査によると、2025年の客室稼働率は、確定値で全体が61.6%だったのに対し、旅館は38.2%でした。ホテルに比べて低い水準で、空いている日をどう埋めるかは、多くの旅館に共通する悩みです。
自社サイトはありました。十年ほど前に作ったもので、載っているのは客室と料理の写真、アクセスの案内、それに電話番号。予約フォームも付いていますが、そこから入る予約は月に数件ほどでした。更新といえば、年末年始の営業案内を書き換えるくらい。そこで止まっていたのです。
予約の中身を見てみると、長く通ってくださるお客様は電話で直接、新しいお客様はほとんどが予約サイト経由という形に分かれていました。常連の方に支えられている一方で、新しいお客様との出会いは、まるごと外の仕組みに預けている状態です。予約サイトの中で自分たちの宿がどう見えているのかも、掲載している写真と点数以上には分かっていませんでした。
若旦那には、以前から自社サイトを直したい気持ちがあったそうです。ただ、何をどう直せば予約につながるのかが分からなかったといいます。結局、写真を入れ替えるくらいで手が止まっていました。相談を受けたとき、まず数字を並べるところから始めたのは、そのためです。
きっかけになったのは、予約サイトの手数料率の見直しの案内が届いたことでした。このままでは、部屋を埋めても利益が細っていく一方です。若旦那が中心になって、自社サイトからの予約を増やせないかを考え始めたのが、この取り組みの出発点になります。同じ悩みを抱える宿は多く、お話を聞くと、予約サイトをやめたいわけではなく、預けきりの状態を少しだけ自分たちの側に戻したい、という言い方をされる方がほとんどです。
自社サイトが予約につながらない理由
最初にしたのは、自社サイトが今どういう状態なのかを見ることでした。感覚で「古いから」と決めてしまうと、直す場所を間違えます。検索でどう表示されているのか、訪れた人がどこで離れているのか。一つずつ確かめていきました。
見ていったのは、検索での見つかり方、サイトに入ってからの動き、そして運営の体制です。どれか一つだけを直しても予約は増えないことが、確かめていくうちに見えてきました。順番としては、検索でどう見えているのかを先に、サイトに入ってからの動きを次に、最後に運営の体制という形で見ていきます。
宿名では見つかっても、エリアや目的の検索では埋もれる状態
宿の名前で検索すれば、自社サイトはきちんと上に出ます。名前を知っている人には、ちゃんと届いている状態です。問題は、宿の名前を知らない人が使う言葉。ここで景色ががらりと変わります。
温泉地の名前と「旅館」を組み合わせた検索では、上のほうを大手の予約サイトが占めていました。その下には旅行の情報サイトや自治体の観光ページが並び、個々の宿の自社サイトが出てくるのはかなり下のほうです。宿を探している人の多くは、まだ宿の名前を知らない段階で検索します。そこに出られていないということは、新しいお客様との接点が予約サイトの中にしか無いということでした。

目的から探す言葉でも同じでした。たとえば、次のような条件です。
- 子どもと一緒に泊まれるか
- 部屋に露天風呂が付いているか
- 誕生日のお祝いに向いているか
そうした条件で探す人が使う言葉に、自社サイトのページが何も対応していません。宿の中にはその条件に合う部屋もプランもあるのに、ページの上では何も語られていない状態でした。
訪れた人が予約まで進みにくい導線
検索から入ってきた、数少ない人の動きも追いました。多くはトップページを開き、客室か料理のページを見て、そこで離れていきます。予約フォームまでたどり着く人は、ごくわずか。
理由は、自分でサイトを開いてみるとすぐに分かります。予約ボタンはページの下のほうに小さく置かれていて、スマートフォンだと画面を何度もなぞらないと出てきません。空室状況を確かめる方法も、どこにも書かれていない状態です。泊まれるかどうかを知るには、電話をかけるしかありませんでした。
料金の見せ方にも迷いがありました。予約サイトには細かいプランが並んでいるのに、自社サイトには「一泊二食付き」とだけ書かれた古い案内が残っています。同じ宿なのに、自社サイトのほうが情報が少ないという状態です。これでは、調べている人が予約サイトへ戻ってしまうのも無理はありません。
更新が止まったまま、社内にも知見がない状態
サイトの更新が止まっていたのは、やる気の問題ではありません。更新の方法が分かる人が、社内にいなかったからです。制作を頼んだ会社との契約はすでに終わっていて、文章を一行変えるにも、どこを触ればよいのか分からなくなっていました。
現場は毎日の接客で手一杯です。誰かが専任でサイトを見られるわけではありません。そうした中で「まず更新できる形にすること」を後回しにしてしまうと、何を決めても実行に移せないままになります。この点は、取り組みを始める前に必ず整えておく必要がありました。
予約サイトと張り合わずに直接予約を増やす方針づくり
状態が見えたところで、どこを目指すのかを決めます。ここで大事にしたのは、予約サイトを敵に回さないこと。送客の仕組みとしては優秀ですし、宿の名前を広く知らせてくれる面もあります。使いながら、その割合を少しずつ変えていく。そういう考え方にしました。
方針を決めるときには、現場で続けられるかどうかも一緒に考えます。手の込んだ施策をいくつも並べても、実行する人がいなければ意味がありません。この宿の人数と時間に合う形に絞っていきました。
予約サイトを減らすのではなく、直接予約の比率を上げる目標
最初に決めたのは、予約の総数ではなく比率を見ることです。予約サイトからの予約を止めてしまえば、そもそも部屋が埋まりません。目指したのは、全体の予約のうち自社サイトから入る割合を、少しずつ引き上げることでした。
比率で見ると、季節の波に振り回されにくくなります。繁忙期は総数が増えるので、施策の効果が分かりにくくなりますが、比率であれば閑散期と並べて比べられます。毎月の会議では、予約の総数と、そのうち自社サイトから入った件数、比率の三つを並べて見るようにしました。
比率の目標は、一年で三割ほどという形に置いています。いきなり半分を狙うと、予約サイトの掲載を絞る話になり、繁忙期の稼働が落ちてしまいます。今の体制で無理なく届く範囲を決めておくと、数字が動かない月があっても、やめる理由にはなりませんでした。
もう一つ決めたのは、いつまでに何をするかという時間の区切りです。検索からの流入は、直したその日に増えるものではありません。半年先までに何を整え、一年後に何を見るのかを先に書き出し、途中で焦って方針を変えないようにしました。
少人数で続けるための体制と費用
体制は、若旦那が担当を持ち、私は月に一度の打ち合わせで方向を確かめる形。現場が手を動かす部分と、外に頼む部分を分けておくと、忙しい時期でも進みが止まりません。
外に頼んだのは、サイトの作り替えと、写真の撮影です。どちらも一度整えれば長く使えるもので、現場の時間をいちばん取られない部分でもあります。逆に、日々の更新や周辺の案内の記事は、宿の人にしか書けない中身なので、現場で持つことにしました。
費用の考え方も先に決めておきました。予約サイトに払っている手数料の一部を、自社サイトを育てるほうに回すという整理です。直接予約が増えれば手数料は減るので、その分を次の年の制作や撮影に充てられます。この見方ができてから、社内での話が進めやすくなりました。
宿を探す人が使う検索語の洗い出し
方針が決まったら、次は言葉を集める作業です。どの言葉で見つけてもらうのか。ここが決まらないと、ページを直しても記事を書いても、誰にも届きません。
ここでの狙いは、大手の予約サイトと同じ土俵に立たないことでした。宿の側にしか書けない中身があり、それを探している人が使う言葉を見つけられれば、規模の差があっても見つけてもらえます。言葉を集めるときは、思いつきで並べるのではなく、宿に実際に届いている質問と、宿泊台帳に残っているお客様の組み合わせから始めました。手元にある材料のほうが、外から借りてきた言葉よりも確かだからです。
旅の場面で分かれる検索語
宿を探す人は、旅の中身によってまったく違う言葉を使います。記念日を控えた二人組と、小さな子どもを連れた家族。気にする点も、検索する言葉も別ものです。
女将と若旦那に、これまでお客様から受けた質問を思い出して書き出してもらいました。出てきたのは、次のような質問です。
- 部屋にお風呂は付いているか
- 子どもの食事はどうなるか
- 送迎はあるか
- 荷物は先に送れるか
こうした質問の一つひとつが、そのまま誰かの検索する言葉になっています。
そこに、宿泊台帳から見える実際のお客様の組み合わせを重ねました。平日は夫婦やご年配の二人旅が多く、週末は家族連れが増えます。この宿に実際に来ている人の顔を思い浮かべながら、狙う言葉を選んでいきました。
「観光」「旅行」「お出かけ」の言葉の違いで変わる検索結果
同じような意味に見える言葉でも、検索したときに出てくるページの顔ぶれは変わります。地名と組み合わせたときの違いは、次のとおりです。
| 地名と組み合わせる言葉 | 並びやすいページ | 予約への近さ |
|---|---|---|
| 観光 | 自治体や観光協会のページ、名所を紹介するページ | 読まれても予約には結びつきにくい |
| 旅行 | 旅行の商品や宿泊のプランを扱うページ | 宿泊を探している人が多い |
| お出かけ | 日帰りで楽しめる場所を探すページ | 宿泊を前提にしない人が多く、つながりにくい |
この違いを確かめないまま「観光」の言葉で記事を書いてしまうと、読まれても予約には結びつきません。実際に検索してどんなページが並ぶのかを見てから、どの言葉で書くのかを決めます。手間はかかりますが、この確認が後の遠回りを減らしてくれます。
予約サイトが上位を占める言葉と、自社サイトで狙える言葉の仕分け
集めた言葉を、そのまま全部狙うわけにはいきません。少人数で進めるので、順番を決める必要があります。
地名と「旅館」「ホテル」だけの言葉は、大手の予約サイトが上位を占めていました。掲載している宿の数が桁違いで、比べられる形で並べている点が強みです。ここに正面から挑んでも、時間ばかりかかります。
どの言葉なら書き勝てるのかは、上位に並んでいるページの中身を見ないと決められません。このツールは、指定したキーワードで上位に出ているサイトから H1 から H6 までの見出しを抜き出し、各ページの文字数や見出しの数、ページの題名や説明文までまとめて表示します。平均の文字数と見出し数も出るので、宿の側が同じ土俵で書けるのか、それとも別の切り口で狙うのかを、感覚ではなく並んでいる中身から判断できます。
その一方で、宿の側が答えられる言葉もありました。露天風呂付きの部屋で過ごす一泊二日の過ごし方、子ども連れで温泉に行くときの持ち物、雨の日でも楽しめる周辺の過ごし方。予約サイトの一覧ページでは書きにくく、実際に泊まった人の様子を知っている宿だからこそ書ける内容です。こうした言葉から着手することにしました。仕分けの基準にしたのは、その言葉で検索したときに並ぶページを、自分たちが上回れる中身で書けるかどうかです。書けないと判断した言葉は、無理に追いかけず、いったん置いておきました。
検索から予約まで進める自社サイトの土台づくり
狙う言葉が決まったら、次は受け皿になるサイトです。記事を増やす前に、今あるページを直すほうが先。せっかく読んでもらえても、そのあと予約に進めなければ、どこにもつながりません。
この段階でやったのは、見やすさと速さ、ページごとの説明の書き直し、そして自社サイトで予約する理由の見せ方です。どれも派手ではありませんが、後から効いてくる部分でした。作業の順番は、見やすさと速さ、ページごとの説明、予約の入り口という形で、お客様の目に触れるところから決めていきました。
スマートフォンでの見やすさと読み込みの速さ
宿を探す人の多くは、スマートフォンで調べます。ですからこの宿のサイトも、まずはその画面で確かめました。文字は小さく、写真の読み込みは遅く、電話番号を押しても電話がかかりません。直す場所は、驚くほどすぐに見つかりました。
写真は、宿のサイトでいちばん見られる部分です。ただ、撮ったままの大きな画像をそのまま載せていたのです。おかげで、表示されるまでにずいぶん待たされていました。画像の大きさを整え、見えている範囲から順に読み込む形に変えたところ、待たされる感じがかなり減りました。

予約ボタンは、画面の下に常に見える形に変えました。どのページを見ていても、泊まりたいと思ったその場で押せる位置にあることが大切です。電話をかけたい人のために、電話のボタンも並べて置きました。
写真の多い宿のサイトは、表示の速さがそのまま離脱につながります。このプラグインは、次に開かれそうなページを先読みする仕組みに対応し、最初に目に入る画像を優先して読み込ませる指定をサーバー側で付けます。遷移が遅いときだけ待ち時間の表示を出す作りで、実際に訪れた人の LCP や INP をダッシュボードで見られるので、直した効果を体感ではなく数字で確かめられます。
ページの題名と客室、プランの説明の書き直し
ページの題名は、検索結果に出たときにいちばん最初に読まれる場所。以前は、どのページも宿の名前だけが並んでいました。これでは、検索した人が自分の探しているものかどうかを判断できません。
客室のページでは、部屋の広さや定員だけでなく、どんな過ごし方に向いているのかを書き足しました。露天風呂が付いた部屋であれば、人目を気にせず入れることや、夜と朝で見える景色が変わることまで書きます。料理の内容も、季節ごとに何が出るのかを具体的にしました。
プランの説明も、予約サイトの文面をそのまま貼るのをやめました。同じ文章が別のサイトにも並んでいる状態では、自社サイトで読む理由がありません。宿の言葉で書き直し、どういう人に向いているプランなのかを最初に置くようにしています。
同じ中身のページが別の場所に並ぶ状態をそろえる
少し脇道にそれます。宿とは別に、国内の旅行のチケットを販売しているサイトに関わったときの話です。そのサイトでは、同じ商品のページが、目的別のディレクトリと出発地別のディレクトリの両方に置かれていました。人の目には別のページ。けれど中身は、ほとんど同じでした。
こうなると、検索エンジンの側はどちらを検索結果に出すべきか判断できません。そこで、次の順番でそろえました。
- STEP 01
正規のページを決める
同じ中身のページのうち、どれを検索結果に出したいのかを先に決めます。
- STEP 02
canonicalで指定する
残りのページから、正規のページを指す指定を入れます。
- STEP 03
サイトの中のリンクをそろえる
サイトの中のリンクも、正規のページだけを指すように直します。
これだけで、狙っていた言葉での表示が安定しました。

宿のサイトでも、同じことが起こりがちです。同じ客室のページが、プランごとや季節ごとに別のURLで増えていくと、どれが本命なのか分からなくなります。だからこそ、ページを増やす前に、同じ中身のページを作らない決まりを持っておくと、後の手直しが減ります。
自社サイトで予約する理由の見せ方
自社サイトで予約してもらうには、そこで予約する理由が要ります。予約サイトには点数や口コミがそろっていて、比べやすさでは勝てません。では、宿の側に何が残っているでしょうか。
この宿が選んだのは、自社サイトからの予約にだけ付ける小さな特典でした。用意したのは次のようなものです。
- チェックアウトの時間を延ばす
- 到着時に飲み物を一杯お出しする
- 部屋の指定を受け付ける
どれも原価がほとんどかからないもので、値引きとは違う形の理由になります。
もう一つ書き足したのは、直接やりとりできるという点です。記念日の相談、食材の苦手の対応、到着が遅れるときの連絡。こうしたことは、宿に直接つながっているほうが通りやすいものです。予約サイトを否定するのではなく、直接だからできることを並べる書き方にしました。特典の中身は、季節ごとに見直すことにしています。同じものを一年出し続けると、常連のお客様には当たり前になってしまうからです。何を出しているかよりも、直接申し込むと融通が利くという感覚が伝わることのほうが大切でした。
宿ならではの情報で予約前の比較検討に応える記事づくり
土台が整ったら、ようやく記事です。といっても、読み物を増やすためのものではありません。泊まる場所を決めかねている人が、最後の一押しを求めて読むもの。そういう位置づけで書きました。
書く中身は、宿の人が普段お客様に話していることの中にありました。わざわざ調べなくても知っている情報こそ、外から来る人にはいちばん知りたいことでした。書き始める前に決めたのは、宿にしか書けない中身かどうかという一点です。どこかで読める内容を並べても、読む人にとっても検索エンジンにとっても、この宿のサイトで読む理由になりません。
地元の人しか知らない周辺の案内
旅先で困るのは、着いてからの時間の使い方です。到着した日の夕方までに何ができるのか、雨が降ったらどこへ行けるのか、帰りの電車までの時間をどう過ごすのか。こうした細かい話は、地図や観光サイトだけでは分かりません。
この宿では、歩いて行ける範囲の店や景色を、季節ごとに書き出していきました。朝だけ開いている店、雨の日でも楽しめる資料館、写真を撮るのにちょうどよい時間帯。実際に足を運んで確かめ、写真も自分たちで撮っています。
この手の記事は、検索する人の数はそれほど多くありません。それでも、読んだ人が宿を決める確率は高くなります。その土地に詳しい人が書いていると伝わると、宿そのものへの信頼にもつながっていきました。
滞在を思い描けるモデルプランと現地の写真
もう一つ書いたのは、一泊二日をどう過ごすのかを時間の流れで見せる記事です。到着してから部屋でひと休みし、夕食までに何ができるのか。朝は何時に起きると何が見られるのか。読んだ人が自分の旅を思い描けるように書きました。
写真は、この記事のために撮り直しました。パンフレット用のきれいな写真ではなく、実際にその時間にその場所から見える景色です。夕食の配膳の様子や、朝の露天風呂から見える山の色など、泊まった人の視点に近いものを選びました。

子ども連れ、夫婦での記念日、一人旅と、過ごし方ごとに記事を分けたことも効きました。自分と近い組み合わせの記事が見つかると、読む人は自分の旅として読み進めてくれます。
記事の終わりには、その過ごし方に合う客室やプランへの案内を置きました。読み終えた人が、次にどこを見ればよいのか迷わないようにするためです。売り込みの言葉は入れず、続けて読めるページとして並べています。
季節やイベントに合わせた更新の続け方
記事は、書いて終わりではありません。周辺の店が変わることもあれば、祭りの日程が動くこともあります。古い情報のまま置いておくと、かえって信頼を損ないます。
この宿では、更新の当番を決めました。毎月一回、前の季節の記事を見直して、変わったところを直す作業です。作業の時間は一時間ほどで、予約の少ない曜日の午前に入れています。
新しく書く記事は、季節の一か月前に出すようにしました。紅葉の記事を紅葉の時期に出しても、検索する人はすでに宿を決めています。検索する人が動き出す時期に合わせて出します。この時間の感覚は、旅の商売ではとくに大切でした。
地図検索と生成AIの検索でも宿の名前が見つかる状態づくり
検索といっても、結果の一覧だけではありません。地図から探す人もいれば、生成AIに質問して候補を絞る人もいます。どちらでも効いてくるのは、宿の名前を出してもらえる状態にしておくこと。特別な裏技があるわけではありません。
地図のほうは、Google ビジネス プロフィールの情報をそろえるところから始めました。営業時間、駐車場の有無、チェックインの時間、写真。いずれも、宿の人が知っていて、まだ載せていなかった情報です。口コミへの返信も、当番で目を通す形にしました。
地図から探す人は、宿の名前を知らないまま、その地域のあたりを見ながら候補を絞っていきます。写真の枚数や、口コミに返事があるかどうかも、そこで目に入ります。宿の側が手を入れられる範囲は限られていますが、載せられる情報を空欄のままにしないことは、すぐにできる作業でした。
返信の文面は、そろえすぎないようにしました。同じ挨拶が並ぶと、読んだ人には形だけの返事に見えてしまいます。書かれた内容に一言ずつ触れる形にしたところ、返信そのものが宿の雰囲気を伝える材料になっていきました。
生成AIに質問したときに宿の名前が挙がるかどうかは、こちらから直接操作できる部分ではありません。それでも、宿の情報が自社サイトにきちんと書かれていて、住所や電話番号が地図と一致していること、周辺の案内まで自分たちの言葉で書かれていることは、名前を挙げてもらううえで土台になります。
どちらも、特別なことをしたわけではありません。宿の名前、場所、できること、できないことを、複数の場所で同じように書きます。この地味な統一が、名前で見つけてもらう場面を増やしていきました。
生成AIに読まれる場面を考えると、サイトの中身を機械が拾いやすい形でも置いておくという考え方があります。このプラグインは、投稿やページの一覧を llms.txt と llms-full.txt として動的に作り、対象にする投稿タイプや件数を選べます。AIのクローラーに向けて、学習や商用利用の可否、アクセスの頻度、除外するパス、正規のドメインといった指定も添えられるので、宿の情報をどこまで読ませるかを自分たちで決めたうえで差し出せます。
検索順位が伸びなかった取り組みと、見直した点
もちろん、すべてがうまくいったわけではありません。時間をかけたのに動かなかった取り組みもあります。ここを隠さずに振り返っておくと、次に同じ手を打たずに済むでしょう。厄介なのは、やっている最中は手応えがないだけで、間違いだとは気づきにくいこと。月に一度の振り返りで、手を動かした量と返ってきた数字を並べてみて、ようやく止める判断ができました。
動かなかったのは、次の取り組みです。
- 言葉を詰め込んだページを作る
温泉地の名前と「旅館」だけの言葉を狙いましたが、上位は大手の予約サイトが占めていて、順位はほとんど動きません。半年ほど続けたところで取りやめ、その時間を周辺の案内の記事に回しました。 - 一般的な観光情報を書き写す
観光協会が出している情報を自社サイトに写した記事も伸びませんでした。同じ内容がすでに別の場所にあり、宿の側が書く理由がありません。記事を書く前に「これは宿にしか書けないか」を確かめるようになったのは、この経験からです。 - 設備の名前を並べる
露天風呂、広縁、貸切風呂と書いても、それがどういう時間になるのかが伝わらなければ、読む人は判断できません。名前ではなく、その設備で何ができるのかを書く形に直したところ、同じページでも滞在時間が変わりました。 - 季節の記事を時期が過ぎてから出す
紅葉の記事を紅葉が終わってから公開しても、その年の検索には間に合いません。翌年のために残るとはいえ、手を動かした月に何も返ってこないのは、続けるうえでこたえます。 - 短い記事をたくさん出す
書くのは現場の合間に時間を作っている人なので、本数を追うと中身が薄くなります。月に一本でも、実際に歩いて確かめた記事のほうが、読まれ方も予約への進み方も違いました。
取り組んだ後の、直接予約の変化
ここから先の数値は、複数の支援をもとに再構成したモデルケースの一例で、実在する宿の実績ではありません。変化を見るときに気をつけたのは、月ごとの数字だけで判断しないこと。宿の予約は季節で大きく動きますから、前の年の同じ月と比べる形にしています。見たのは、自然検索からの流入、宿の名前での検索の回数、自社サイトからの予約の件数と比率の四つ。どれも毎月同じ形で記録し、季節の違いが分かるように前の年と並べました。
検索からの流入と宿名での検索の推移
先に動いたのは、宿の名前で検索する人の数でした。周辺の案内の記事を読んだ人が、後日あらためて宿の名前で調べ直す。その動きが、取り組みを始めて三か月ほどで少しずつ表れ始めます。
検索からの流入そのものは、半年を過ぎたころから伸び始めました。伸びたのは、周辺の案内と過ごし方の記事です。地名と「旅館」の言葉ではなく、条件や場面から探す言葉で入ってくる人が増えていきました。
一年の時点では、自然検索からの流入が取り組み前のおよそ二倍半になりました。季節の波はありますが、前の年の同じ月と比べると、どの月も上回る形で落ち着いています。
直接予約の件数と手数料の変化
一年の時点での変化を並べると、次のとおりです。
| 項目(一例) | 変化 |
|---|---|
| 自社サイトからの予約 | 月に数件から月に三十件ほどへ |
| 予約全体に占める直接予約の比率 | 一割に満たない状態から三割ほどへ |
| 予約サイトからの予約 | 大きくは減らず、総数が増えた分だけ比率が下がる |
予約サイトの送客を保ったまま、自社サイトの分を上積みできたことになり、これは方針どおりの形でした。手数料の負担は、比率が変わった分だけ軽くなりました。浮いた分は、翌年の写真の撮り直しと、客室の備品の入れ替えに回しています。集客の費用が宿の中に戻っていく形になったことが、現場の納得にもつながりました。
電話での予約も少し増えました。周辺の案内の記事を読んでから、細かい相談をしたくて電話をかけてくる方です。数としては多くありませんが、そのまま予約になる割合は高く、記事の効き目は予約フォームの中だけでは測れないことが分かりました。
成果が見えるまでにかかった期間と季節の波
動きが見え始めるまでには、三か月から半年ほどかかりました。この期間は、数字の上ではほとんど何も起きません。いちばん心が折れやすいところでしょう。ここで手を止めてしまうと、それまでの作業が無駄になります。
季節の波も、判断を難しくします。繁忙期は何もしなくても予約が増え、閑散期は何をしても静かです。月ごとの上下で一喜一憂せず、前の年の同じ月と比べます。この見方を最初に決めておいたことが、続けるうえで効きました。
一年を通して見ると、伸びが大きかったのは閑散期でした。繁忙期は元から埋まるので変化が見えにくく、空室が出やすい時期にこそ、直接予約の効き目がはっきり表れます。この宿にとっては、いちばん助かる形の伸び方でした。
直接予約の増加で要になった、検索語の選び方と予約までの導線
振り返ってみると、効いたのは大きく分けて二つ。探している人が実際に使う言葉を選んだことと、読んだ後に予約まで進める道を作っておいたことです。どちらも派手な施策ではありません。それでも、この二つがそろって初めて数字が動きました。
言葉の選び方では、規模で勝てない言葉を早めに手放したことが大きかったと思います。地名と「旅館」のような言葉を追いかけ続けていたら、一年かけても順位は動かなかったはずです。宿にしか書けない中身があり、それを探している人がいる言葉に絞ったことで、少ない本数でも届くようになりました。
導線のほうは、予約ボタンの位置や空室の見せ方といった細かい直しの積み重ねです。記事を読んで宿に興味を持った人が、その場で空室を確かめて予約まで進めるようにします。この流れが途切れていないかを、季節ごとに自分たちで確かめる形にしています。
もう一つ挙げるとすれば、予約サイトを敵にしなかったことです。送客の仕組みとして使い続けながら、自社サイトの比率を上げます。この構え方だったからこそ、途中で数字が動かない時期があっても、現場が不安にならずに続けられました。
続けられる形にしておいたことも、同じくらい効きました。更新の当番と、月に一度の振り返りを先に決めておいたおかげで、繁忙期を挟んでも手が止まりません。宿の集客は、時間を作れる時期と、何もできない時期がはっきり分かれます。その波を前提に組んでおけば、止まった月があっても、翌月から自然に戻れるでしょう。逆に、毎週の更新のような細かい約束を置いてしまうと、繁忙期に一度崩れたところで気持ちが切れてしまいます。宿の仕事の山と谷に合わせて、続けられる約束だけを残しておくことが、一年の終わりに差として出ました。
まとめ
この旅館は、予約サイトを減らすのではなく、自社サイトから入る予約の比率を上げるという形で、手数料の負担を軽くしていきました。
取り組みの中心は、旅の場面から探す人の言葉を選び直したこと、スマートフォンでの見やすさと予約までの導線を整えたこと、宿の人にしか書けない周辺の案内と過ごし方の記事を出し続けたこと、そして地図や生成AIの検索でも同じ情報が見つかる状態にしたことでした。
成果が数字に表れるまでには半年ほどかかり、途中には動かない時期もあります。前の年の同じ月と比べる見方を先に決めておくと、その時期を越えやすくなります。自分の宿に置き換えるなら、まずは宿の名前以外の言葉でどう表示されているかと、スマートフォンで予約まで何回の操作がかかるかを確かめてみてください。その二つだけでも、次に手を付ける場所がはっきりしてきます。









