Google検索の世界では、ユーザーが入力した1つの質問に対して、AIが内部で複数の検索を同時に走らせる新しい技術が注目を集めています。この技術こそが「クエリファンアウト」です。2025年にGoogleがAIモードを発表したことで、検索体験は大きく変わろうとしています。従来の検索が1つのキーワードに対して1つの結果リストを返していたのに対し、クエリファンアウトはユーザーの意図を深く読み解き、多角的な情報収集を自動で行ってくれます。この記事では、クエリファンアウトの仕組みから実務への影響まで、具体的に掘り下げていきます。
クエリファンアウトとは何か
クエリファンアウトとは、ユーザーが入力した1つの質問をAIが複数のサブクエリに自動分解し、それらを並列で検索して結果を集約する技術です。英語では「Query Fan-out」と表記され、扇状に広がるイメージから名付けられています。ユーザーが「一人暮らしにおすすめの家電」と検索したとき、従来の検索では単純にそのフレーズに関連するページを返していました。しかしクエリファンアウトでは、「一人暮らし向け冷蔵庫」「単身者向け洗濯機」「ワンルームに置けるレンジ」といった複数の関連トピックに分解し、それぞれの検索結果を同時に取得します。取得した情報はGoogleのGeminiモデルによって統合され、ユーザーには一貫性のあるまとまった回答として提示されます。

ユーザーの質問を分解して並列検索する技術
クエリファンアウトの核心は、スキャッターとギャザーという2つの処理にあります。スキャッター処理では、ユーザーの質問を複数の小さな検索クエリに分散させます。このとき、通常のウェブ検索だけでなく、ナレッジグラフ、ショッピングデータベース、ニュースインデックスなど、複数の情報源に対して同時にアクセスが行われます。Googleのショッピンググラフは1時間に20億回も更新されており、リアルタイム性の高い情報も取得可能です。ギャザー処理では、分散して取得された情報を1つにまとめます。単純な羅列ではなく、情報同士の関連性や矛盾点を検証しながら、論理的に整理された回答を構築していきます。
| 処理フェーズ | 役割 | 対象となる情報源 |
|---|---|---|
| スキャッター | ユーザーの質問を複数のサブクエリに分散 | ウェブ検索、ナレッジグラフ、ショッピングDB、ニュースインデックス |
| ギャザー | 分散取得した情報を論理的に統合 | 各情報源からの検索結果すべて |
| 検証・整理 | 矛盾点の確認と回答の構築 | 統合された情報全体 |
クエリファンアウトが生成する8つのサブクエリタイプ
クエリファンアウトによって生成されるサブクエリは、現在8つのタイプに分類されると考えられています。これらのタイプを理解することで、AIがどのようにユーザーの意図を解釈しているかが見えてきます。
- 曖昧さの解消:ユーザーが使った言葉が複数の意味を持つ場合、それぞれの解釈に対応したクエリを生成
- 潜在ニーズの明示化:ユーザーが言葉にしていない隠れた要望を推測してクエリ化
- 詳細の深掘り:質問のテーマをより具体的な観点から調査
- 主張に対する証拠収集:賛成意見と反対意見の両方を集めるためのクエリを発行
- エンティティ取得:人名や地名、商品名などの固有名詞に関する情報を収集
曖昧さ解消から個別化まで対応する仕組み
残りの3つのサブクエリタイプも重要な役割を担っています。
- 関連トピックへの拡張:ユーザーの質問に直接は含まれないが関係性の高い周辺情報を探索
- セッション文脈の保持:会話形式での連続した質問において、前の質問との関連性を維持しながらクエリを生成
- ユーザー行動や属性への個別化:検索履歴や位置情報などに基づいてパーソナライズされたクエリを作成
これら8つのタイプを組み合わせることで、表面的な質問の背後にある本当の意図に迫る検索が実現しています。特に複雑な質問や比較検討を必要とするテーマでは、複数のタイプが同時に活用されます。
| サブクエリタイプ | 目的 | 具体例 |
|---|---|---|
| 曖昧さの解消 | 多義語の意味を特定 | 「アップル」→ 企業/果物の両方を検索 |
| 潜在ニーズの明示化 | 言語化されていない要望を推測 | 「引越し」→ 費用、手続き、業者選びも検索 |
| 詳細の深掘り | テーマの具体的観点を調査 | 「ダイエット」→ 食事法、運動法、期間別に検索 |
| 証拠収集 | 賛否両論の情報を収集 | 「○○は効果ある?」→ 肯定・否定両方の根拠を検索 |
| エンティティ取得 | 固有名詞の詳細情報を収集 | 人物名→ 経歴、実績、関連情報を検索 |
| 関連トピック拡張 | 周辺情報を探索 | 「住宅購入」→ ローン、税金、保険も検索 |
| セッション文脈保持 | 会話の流れを維持 | 前の質問を踏まえた追加検索 |
| 個別化 | ユーザー属性に合わせる | 位置情報や検索履歴に基づく調整 |
「潜在ニーズの明示化」や「関連トピック拡張」を把握するには、Googleが実際に表示する「他の人はこちらも質問」や関連キーワードを分析するのが効果的です。以下のツールでこれらの情報を体系的に収集できます。
Google AIモードにおけるクエリファンアウトの動作フロー
Google AIモードでは、クエリファンアウトが中核技術として機能しています。ユーザーが質問を入力すると、まず計画フェーズが開始されます。この段階でGeminiモデルがクエリの意図を分析し、どのようなサブクエリを生成すべきかを決定します。次に検索フェーズに移り、計画に基づいて複数のサブクエリが同時に発行されます。検索対象はウェブページだけではありません。ナレッジグラフからは確立された事実情報が取得され、ショッピンググラフからは商品の価格や在庫状況といったリアルタイムデータが取得されます。各情報源から得られた結果は、次のフェーズで統合されます。
Google公式ブログでは、AIモードについて「クエリファンアウト技術を使用し、質問を複数のサブトピックに分解して同時に複数のクエリを発行することで、従来の検索よりもウェブの深層まで到達できる」と説明しています。2025年5月のGoogle I/Oで米国での一般提供が発表されました。


計画から再計画まで多段階で情報を収集
AIモードの特徴的な点は、検索結果を評価した上で再計画を行えることです。最初の検索で十分な情報が得られなかった場合や、新たな疑問点が浮上した場合、追加のサブクエリを生成して再度検索を実行します。この反復的なプロセスにより、単純な一回限りの検索では到達できない深さの情報収集が可能になります。最終的に、収集された情報は矛盾点の検証と論理的な整理を経て、ユーザーに提示される回答として構築されます。回答には情報源へのリンクも含まれるため、ユーザーは必要に応じて元の情報を確認することができます。
| フェーズ | 処理内容 | 特徴 |
|---|---|---|
| 計画 | クエリの意図分析とサブクエリ設計 | Geminiモデルが最適な検索戦略を決定 |
| 検索 | 複数のサブクエリを並列発行 | ウェブ、ナレッジグラフ、ショッピングDBに同時アクセス |
| 評価 | 取得情報の品質と網羅性を判定 | 不足があれば再計画フェーズへ移行 |
| 再計画 | 追加サブクエリの生成と再検索 | 反復的に情報の深さを拡張 |
| 統合 | 矛盾点検証と論理的整理 | 一貫性のある回答を構築 |
Deep Searchでさらに深まるクエリファンアウトの活用
GoogleはAIモードの発展形として「Deep Search」という機能も提供しています。Deep Searchでは、クエリファンアウトの技術がさらに拡張され、数百にも及ぶサブクエリが同時に発行されます。通常のAIモードでは数十程度のサブクエリが生成されるのに対し、Deep Searchでは専門家が行うような徹底的なリサーチが自動化されます。たとえば技術的な比較検討や、複数の学術論文を横断した情報収集など、従来なら数時間かかっていた調査作業が数分で完了します。生成されるレポートには詳細な引用情報が付与されており、情報の信頼性を確認しやすい形式になっています。
GoogleのDeep Research機能は、ウェブとGmail、Drive、Chatを自律的に検索し、関連性の高い最新情報を収集します。収集した情報を反復的に推論しながら、詳細で洞察に富んだレポートを生成する機能として公式に紹介されています。
数百のサブクエリで専門家レベルのレポートを生成
Deep Searchが強力なのは、単に検索数が多いだけではありません。異なる情報源から得られたデータを横断的に分析し、矛盾点や一致点を明確にしながらレポートを構築する点にあります。たとえば、ある製品の評価について、複数のレビューサイト、専門メディア、SNSでの反応を総合的に分析し、バランスの取れた見解を提示します。この機能は特に意思決定を必要とする場面で有効で、購買判断、投資検討、技術選定などのシナリオで活用されることが想定されています。通常の検索結果を眺めるだけでは得られない、俯瞰的な視点を提供してくれるのがDeep Searchの価値です。
| 項目 | 通常のAIモード | Deep Search |
|---|---|---|
| サブクエリ数 | 数十程度 | 数百規模 |
| 処理時間 | 数秒〜十数秒 | 数分程度 |
| 出力形式 | 要約形式の回答 | 詳細なレポート形式 |
| 引用情報 | 主要な情報源を提示 | 詳細な引用情報を付与 |
| 想定用途 | 日常的な情報検索 | 専門的なリサーチ、意思決定支援 |
| 情報の深さ | 標準的な網羅性 | 専門家レベルの徹底調査 |
AI Overviewsとクエリファンアウトの違い
Googleの検索結果に表示される「AI Overviews」とAIモードは、どちらもAI技術を活用していますが、その目的と仕組みは異なります。AI Overviewsは従来の検索結果ページの上部に表示される要約機能で、ランキングアルゴリズムによって選ばれた上位コンテンツを基に生成されます。情報源のリンクを明示しながら、検索クエリに対する端的な回答を提供することが主な役割です。一方、AIモードはクエリファンアウトを前提とした探索型の機能で、単なる要約ではなく多角的なリサーチを行います。ユーザーとの対話を通じて質問を掘り下げ、より深い情報収集が可能です。
2025年7月時点で、AI Overviewsは月間20億人以上のユーザーに利用されており、AIモードは米国とインドで月間1億人以上のアクティブユーザーを獲得しています。
要約提示とリサーチ型探索の根本的な差異
AI Overviewsは「すぐに答えを知りたい」というニーズに応える機能です。検索結果を見る時間を短縮し、効率的に情報を得ることを目的としています。対してAIモードは「じっくり調べたい」というニーズに対応しています。複数の視点から情報を集め、比較検討するプロセスをAIが代行してくれます。この違いはコンテンツ制作にも影響します。AI Overviewsに引用されるためには、明確で端的な回答を含むコンテンツが有利です。AIモードで情報源として選ばれるためには、特定のトピックについて深い専門性を持ったコンテンツが求められます。どちらか一方だけでなく、両方のニーズに対応できるコンテンツ設計が今後は重要になります。
| 比較項目 | AI Overviews | AIモード(クエリファンアウト) |
|---|---|---|
| 表示場所 | 検索結果ページ上部 | 専用のAIモード画面 |
| 主な目的 | 端的な回答の即時提供 | 多角的なリサーチと深掘り |
| 検索方式 | ランキング上位コンテンツを要約 | クエリファンアウトで並列検索 |
| 対話機能 | なし(一方向の情報提供) | あり(追加質問で深掘り可能) |
| ユーザーニーズ | すぐに答えを知りたい | じっくり調べたい |
| コンテンツ要件 | 明確で端的な回答 | 深い専門性と網羅性 |
クエリファンアウト時代のコンテンツ設計で意識すべきこと
クエリファンアウトの登場により、コンテンツ設計の考え方は大きく変わります。従来は特定のキーワードで検索上位を獲得することが最重要でしたが、クエリファンアウト環境では複数のサブクエリに対して情報を提供できるかどうかが問われます。1つのキーワードに最適化されたコンテンツよりも、そのテーマ全体を網羅的にカバーしたコンテンツの方が、より多くのサブクエリにマッチする可能性があります。つまり、トピック全体に対する権威性を確立することが重要になってきます。個別の記事を量産するよりも、相互にリンクした体系的なコンテンツ群を構築する方が効果的です。


単一キーワードからトピック全体への視点転換
これまでのSEOでは「このキーワードで1位を取る」という発想が基本でした。しかしクエリファンアウト時代には「このテーマについて最も詳しいサイトになる」という発想への転換が必要です。たとえば「住宅ローン」というキーワードだけでなく、金利の仕組み、審査基準、繰り上げ返済のメリット、借り換えのタイミングなど、関連するあらゆる疑問に答えられるコンテンツ群を持っているサイトが、クエリファンアウトによる多角的な検索で選ばれやすくなります。ユーザーが持つ潜在的な疑問を先回りして解決するコンテンツが、AI時代には特に価値を持ちます。
| 観点 | 従来のSEO | クエリファンアウト時代 |
|---|---|---|
| 目標設定 | 特定キーワードで1位獲得 | テーマ全体での権威性確立 |
| コンテンツ戦略 | 個別記事の量産 | 体系的なコンテンツ群の構築 |
| 最適化対象 | 単一キーワード | 複数のサブクエリ |
| 重視する指標 | 検索順位 | トピックカバー率 |
| ユーザー対応 | 顕在ニーズへの回答 | 潜在的疑問の先回り解決 |
クエリファンアウト対策における実務的なポイント
クエリファンアウトへの対応は、一朝一夕で完成するものではありません。まず取り組むべきは、自社が専門とするテーマについて、ユーザーが抱きうる疑問を徹底的に洗い出すことです。直接的な質問だけでなく、比較検討の視点、懸念事項、具体的な活用シーン、失敗事例なども含めて整理します。これらの疑問一つひとつに対して、信頼できる情報を提供できる体制を構築していきます。また、情報の正確性と最新性を維持することも重要です。クエリファンアウトでは複数の情報源を比較するため、古い情報や誤った情報は他のソースとの矛盾として検出されやすくなります。
クエリファンアウト対策として優先的に取り組むべきポイントは以下の通りです。
- ユーザーが抱きうる疑問の徹底的な洗い出し(直接的な質問、比較検討、懸念事項、活用シーン、失敗事例)
- 各疑問に対して信頼できる情報を提供できる体制の構築
- 情報の正確性と最新性の維持(定期的な内容レビュー)
- 根拠となる情報源の明記と引用の適切な実施
網羅的な情報提供と構造化を両立させる方法
コンテンツの網羅性を高める際に注意すべきは、単に情報量を増やせばいいわけではないという点です。論理的な構造を持ち、必要な情報に素早くアクセスできるコンテンツでなければ、AIにとっても人間にとっても使いにくいものになります。見出し階層を適切に設定し、各セクションで何について説明しているかを明確にすることが基本です。また、事実と意見を明確に区別し、主張には根拠を示すという姿勢も重要です。クエリファンアウトは証拠収集型のサブクエリも発行するため、根拠のない主張は評価されにくくなります。読者が知りたいことを、正確に、わかりやすく伝えるという基本に立ち返ることが、結果としてクエリファンアウト対策にもなります。
Google AIモードの日本展開と今後の見通し
2025年9月9日、GoogleはAIモードの日本語対応を正式に開始しました。これにより、日本のユーザーもクエリファンアウト技術を活用した高度な検索体験が可能になっています。AIモードは現在、200以上の国と地域で提供されており、日本語を含む35以上の言語に対応しています。Google検索の結果ページに表示される「AIモード」タブから、PCとモバイルのブラウザ、AndroidおよびiOSのGoogleアプリで利用できます。
Google公式ブログでは、AIモードが日本語を含む5つの新言語(ヒンディー語、インドネシア語、日本語、韓国語、ブラジルポルトガル語)で提供開始されたことを発表しています。Gemini 2.5のカスタムバージョンを使用し、長く複雑な質問に一度の検索で回答できる機能です。
サイバーエージェントの調査(2025年10月)によると、日本における検索時の生成AI利用率は、2025年5月の21.3%から同年10月には31.1%へと9.8ポイント増加しました。特に10代の利用率は64.1%と極めて高く、若年層を中心に「生成AIシフト」が加速しています。


日本でのAIモード活用と今後の展望
日本語対応が実現した今、国内のウェブサイト運営者はクエリファンアウトへの対応を本格的に検討すべき段階に入っています。Googleは2025年12月にGemini 3をAIモードに導入し、さらなる機能強化を進めています。より高度な推論能力を持つモデルが検索に統合されることで、クエリファンアウトの精度と対応範囲は今後も拡大していく見込みです。クエリファンアウトに対応できていないサイトは、AI検索時代の競争で後れを取る可能性があります。
AI検索への対応策として、AIクローラーがサイトコンテンツに構造化された形式でアクセスできるよう整備することも有効です。以下のWordPressプラグインでは、AIクローラー向けのllms.txtファイルを自動生成し、サイト情報をAIに効率的に伝える仕組みを構築できます。
AIモードを活用する上で意識すべきことはいくつかあります。
- 自社サイトが専門とするテーマについて、網羅的かつ体系的なコンテンツを整備すること
- クエリファンアウトで発行されるサブクエリに幅広く対応できるよう、関連トピックのカバー率を高めること
- コンテンツの正確性と信頼性を担保する体制を整えること(情報源の明記、定期的な内容の見直し、専門家による監修)
- ユーザーの疑問に直接答える形式のコンテンツを増やすこと(FAQ形式やハウツー形式はクエリファンアウトとの相性が良い)
FAQ形式のコンテンツを作成する際は、FAQPage構造化データ(JSON-LD)を併せて実装することで、検索エンジンに情報をより正確に伝えられます。以下のWordPressプラグインを使えば、構造化データ付きのFAQブロックを簡単に作成できます。
特に重要なのは、自社の専門分野における「トピックの網羅性」です。クエリファンアウトでは、ユーザーの質問に関連する複数のサブクエリが同時に発行されます。これらのサブクエリに幅広く対応できるサイトは、AIモードの回答に引用される可能性が高まります。逆に、特定のキーワードだけに特化したコンテンツは、関連するサブクエリに対応できず、AIモード時代には評価されにくくなる恐れがあります。AIモードが日本語で利用可能になった今こそ、クエリファンアウト対策を本格的に進めるべきタイミングです。










